利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアル①「管理職が知らないとまずい、安全衛生管理の法知識」

 

こんにちは。

 

エイダーズ山崎正徳です。

 

普段、介護や医療の現場で働く方の相談を受けている中で、利用者や患者からの暴言暴力やセクハラの被害に遭い、傷つき、とても苦しい思いをしている方に多くお会いします。

 

暴力被害が及ぼす影響は実際にとても深刻で、トラウマやうつ病などのメンタルヘルス問題、休職や退職など、人手不足の援助職の現場にとってはとても大きなリスクとなり得ます。

 

「患者さんから殺すぞ!と大声で怒鳴られ、怖くて泣いてしまいました」

 

「電話で一方的に1時間近く罵られて、頭が真っ白で、とにかく胸が苦しくて。電話が終わった後もしばらくは放心状態が続きました」

 

あなたも同じような経験に遭い、深く傷ついた経験はありませんか? 

 

私自身も、患者さんから暴力を受けたこともあれば、電話相談で長時間罵られたこともあります。

 

ある患者さんに会うのが嫌で、仕事に行きたくなくて仕方がなかった時期もあります。

 

対人援助の職場では、悪質なクレーマーやモンスター利用者(患者)などの被害はつきものであり、誰もが何かしらの被害に遭っているのではないでしょうか。

 

参考までに、暴力被害についての調査結果をいくつか紹介しておきます。

 

▶ 労災認定を受けた看護師の44.2%が患者からの「暴力を体験」(過労死等防止対策白書・2018年)

 

▶ 看護師の約31%は患者からの迷惑行為を受けたことがあると回答。精神的な攻撃31.5%、身体的な攻撃22.9% (日本看護協会2017年アンケート)

 

▶ 「過去に利用者からハラスメントを受けたことがあるか」という問いに対して、「ある」との回答割合は特養で71%に上り、訪問介護でも50%に達する。(介護現場におけるハラスメントに関する調査研究・2019年 / 厚生労働省)

 

これを見るだけでも、暴力被害に遭っている人がとても多いことがわかりますよね。

 

ただ、このような暴力問題に対して、職場として真剣に向き合い、話し合い、対処をしている職場はあまりにも少ないのではないかな、と私はいつも思います。

 

それどころか、「この仕事をしていればこれくらい当たり前」「むしろ患者さんをあそこまで怒らせたあなたに原因がある」などと、暴力被害を「仕事の一部」として扱い、まともな対処をしていない。

 

役職者は、責任の所在が自分たちにあることすらもきちんと理解していない。

 

こんな職場がほとんどなのかなと感じます。

 

そして、そこで被害に遭う人も、「私にも悪いところがあるから」「これくらいで辛いなんて思っていたら介護職は務まらない」なんて自分に言い聞かせていませんか。

 

私としては、このような問題に職場がきちんと対処していないことをとても深刻に思い、なんとか現状を変えていく必要があると思っています。

 

そのようなことから、今回から何回かに分けて、暴力被害についての職場としてあるべき姿勢や対応方法などについて、私の考えを書いていこうと思います。

 

「対応マニュアル」として書き連ねていきますが、このマニュアルは、いわゆる「今すぐできる具体的なテクニック」が中心ではありません。

 

というのも、暴力被害が「仕事の一部」として根付いた職場は、職場の風土はもちろん、職務に対する考え方、管理職の役割、スタッフ同士の関係性やコミュニケーションの問題など、本当に多くの課題を抱えていることがほとんどです。

 

だからこそ、暴力の問題と向き合うことは、職場の本質的な課題と向き合うことでもあるのです。

 

これからこのブログを読み進めながら、あなたの職場について、よく振り返ってみて頂きたいなと思います。

 

第1回は、暴力問題に対する職場としての、従業員に対する「役割と責任」について、大切な話をします。 


暴力被害を上司に報告したら、「あの患者さんはトラウマがあるから仕方ない」と言われたんですが、本当にそうなんですか?

 

一昨年、精神科クリニックで働く看護師のAさんが、私のもとに相談に訪れました。

 

「うちのデイケアに、ものすごいクレーマーの患者さんがいて、みんなが被害に遭ってるんです。その患者さんは、誰かスタッフでターゲットを見つけると、毎日やたらとそのスタッフに絡むんです。いちいち難癖をつけて、反発して、声を荒げて威嚇したり」

 

「私はこれまで大丈夫だったんですけど、先月、ついにターゲットになってしまって。この一週間、すごく嫌な思いをしました。とにかく言い方がきつくて。昨日もプログラム中に大声で怒鳴られて。みんなの前ですごく罵って、周りのスタッフも上司も止められなくて。それで私、怖くて泣いてしまいました」

 

「もう辛くて辛くて。今朝は仕事に行くのが嫌で、吐きそうでした。それでもなんとか職場に行って、上司に相談したんです。あの患者さんがいると安全に働けないので、なんとかしてほしいと伝えました。そしたら、『あの人はトラウマがあるから、寄り添う対応が必要なんだよ。感情のコントロールも苦手な人だから、仕方ないよね』と言うんです」

 

「そう言われて、もう辞めるしかないかなと思いました。だって、私は今後も耐え続けるしかないということですよね?本当に上司の言うことは正しいんですかね。私はずっとおかしいと思ってました。でも、他のスタッフも諦めているというか」

この話を聴いて、多くの援助職の方が「うちでも同じようなことがある!」と思うのではないでしょうか。

 

特に精神疾患を抱えた方を対象に支援をしている職場では、まさに「あるある」の話だと思います。

 

「あの人は躁うつ病でハイな時は攻撃的になるから、仕方がないんだよ」

 

「あの人はトラウマを抱えているから、いくらひどい暴言を吐いても、寄り添ってあげる対応をしないといけないよ」

 

「発達障害だから、理解してあげないと」

 

こんな風に、利用者や患者の病態や、過去に受けた心の傷などが暴力の原因であり、だから仕方がないんだよ、という考えで暴力被害を「仕事の一部」として、職場が許容してしまう。

 

このような対応をしている職場が未だに多いな、という印象を受けます。

 

でも、本当にそうなんでしょうか。

 

本当にトラウマがある利用者さんの暴力は仕方がないのでしょうか。

 

スタッフがどれだけ傷つけられても、それは許容すべきことなのでしょうか。

 

あなたはどう思いますか? 

 

これについて、私の考えをお話ししていきますね。


経営者や管理監督者が知らないとまずい、安全衛生管理のための法知識

 

まず、職場が知っておかないとまずい安全衛生管理のための基本的な話をしていきます。

 

これは管理職なら必ず知っておくべき話ですので、ちょっと硬い話になりますが、読んでみてください。

 

●安全配慮義務●

 

「使用者は、労働契約に伴い、労働者が生命、その身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)

 

要するに、「職場は従業員を雇用するなら、心身に過度な負荷をかけて健康を損なわせるようなことがないように、十分に注意する義務がありますよ」ということです。

 

だから、事業主から従業員を管理監督する権限を与えられている管理職は、部下である従業員の健康を守る義務が課されているのです。

 

●労働者の心の健康の保持増進のための指針●

  

職場でのメンタルヘルスケア対策を推進するために厚生労働省が定めた具体的な指針です。

 

この指針では、職場の中で以下の「4つのケア」を整えることが大切だと定めています。

 

① セルフケア  

 

労働者自身が行うケア。従業員一人一人がメンタルヘルスについての正しい知識を持って、ストレスに気づき予防、対処していくこと。

 

② ラインケア

 

管理監督者が行うケア。職場環境を把握して、問題があれば改善に努めること。部下の相談対応を行い、サポートを行うこと。

 

③ 事業場内産業保健スタッフ等によるケア

 

職場の産業医や保健師、人事労務管理部門などの内部のスタッフにより行われるケア。

 

④ 事業場外資源によるケア

 

職場外のメンタルヘルスの専門家や専門機関などを活用して行うケア。 

 

この4つのケアの中でも最も重要なのが、ラインケアです。

 

管理職が日ごろから部下の健康状態に関心を持ち、より安全に働ける職場環境を整えていくことが、管理職に求められる役割なのです。

 

●パワハラ防止法●

 

2020年6月に施行されたばかりの法律で、この法律により職場におけるパワハラ対策が「義務」になりました。

 

この法律成立に基づく指針案の中に、「顧客等からの著しい迷惑行為」についても、以下の通り、職場が必要な体制を整備する必要性が盛り込まれています。

 

事業主は、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関する労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、以下の取組を行うことが望ましい。

・相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。
・上記の相談を受けた者が、相談に対しその内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

 

また、併せて、労働者が当該相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。

要は、「ハラスメントは上司や同僚などの職場の人間関係に限らず、利用者や患者、そして患者家族、また関係機関などの顧客との関係も含めるので、職場は悪質なクレーマーなどを放置せず、ちゃんと対応してくださいね」ということです。


多くの職場が「ケース対応」と「安全衛生管理の問題」を混同している。

 

ここまで読んでみて、改めて看護師のAさんの相談について、考えてみましょう。

 

Aさんの働くデイケアでは、ある患者さんがターゲットに定めたスタッフに理不尽な暴言を何度も浴びせ、被害に遭ったAさんは職場に安全を感じることができていません。

 

そして、仕事に行こうとすると嫌で嫌で吐きそうになるほどの強いストレスを覚えています。 

 

Aさんの話によると、これまでも複数のスタッフが何度も傷つけられ、強いストレスを感じているようです。

 

ここで管理職に求められる役割や責任はどのようなものだと思いますか?

 

本当に、「あの患者さんはトラウマがあるから仕方がない」のでしょうか。

 

確かに、援助職は専門家ですから、患者さんの病態などを評価し、理解し、関わり方に細心の注意を払う必要があります。

 

トラウマがあれば精神的に不安定になりやすく、時にはスタッフに声を荒げてしまうことがあるのもわかります。

 

他にも、イライラしやすかったり、言い方がきつい患者さんは当然いるし、その中で信頼関係を築きながら支援をしていくとうのが専門家の仕事であることもわかります。 

 

ただし、これらは全て「ケース対応」の話であり、役職者は「職場の安全衛生管理の問題」も同時に考えていく必要があるのです。

 

雇用する 従業員の安全が脅かされ、心身に強い影響を及ぼすほどの問題があるなら、「この仕事をしていればこれくらい当たり前」「あの人は感情のコントロールができないから仕方がない」「そんなんじゃうちではやっていけないよ」では済む話ではないのです。

 

「ケース対応」と「安全衛生管理の問題」

 

これらをきちんと分けて考え、従業員に職場としての責任を果たす意識をもつこと。

 

暴力被害をゼロにすることはもちろん難しいかもしれない。

 

でも、職場としては「我慢してね」「最近の人たちは根性が足りない」ではなく、安全衛生管理の観点から、無くなるように真剣に考えること。

 

役職者はこの意識を十分に持って暴力被害の問題と向き合わなければ、これからの時代、人がどんどん辞めていくことになるでしょう。

 

あくまでも私の考えですが、援助職の現場の管理職は、一般企業と比べると管理職の役割をきちんと勉強している人が少ないと思いますし、職場も管理職の役割をきちんと教育していないですよね。

 

だからこそ、管理職として最低限知っておくべき法知識を身に着け、コンプライアンス(法令遵守)の意識をもって働いてほしいなと思います。

 

最後に、職場のメンタルヘルス問題に対する管理職の役割を勉強したい方は、以下のサイトがお勧めです。

 

◆心の耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

 

しっかりと学びたい管理職の方には、メンタルヘルスマネジメント検定試験のⅡ種(ラインケアコース)をお勧めします!

 

◆メンタルヘルス・マネジメント検定試験

 

今日は職場の心得について本当に基本的な話をしましたが、引き続きこの問題について、ブログで具体的に解説していきますね。

 

ぜひ、この後のブログも読んでみてください。 

 

続きはこちら

利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアル②「バウンダリー(境界線)を切り口にした関係性の理解」


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