過酷なサバイバルを続ける「生活保護ケースワーカーの現実」
私がエイダーズを開業してから、自分でも意外だったことがあります。
それは、福祉事務所で働く生活保護ケースワーカーさんから、多くの相談が寄せられたということです。
「疲れていて自分を見失いそう」とセミナーに参加された方
「退職するかどうか悩んでいる」とカウンセリングで相談された方
「自助グループのような場所を探していた」と検索から対人援助職の自助グループに申し込まれた方、などなど
皆さんの話を聴いていて私が感じたことは、あれだけ大変で過酷な仕事であるにも関わらず、上司や同僚同士で「お互いに燃え尽きないように支え合う」という環境が整っていないのだな、ということでした。
私はクリニックや病院での仕事を通して生活保護ケースワーカーの方と連携することが多かったので、その過酷さ、ストレスは相当なものだろうと理解してきました。
・とにかく激務。日中は受給者への対応でろくに休憩をとる時間もない。タイムマネジメントなんて一切できない。役所が閉まってから、ようやく自分の仕事にとりかかれる。
・忙しいのに毎日電話をかけてきて、なかなか電話を切らせてくれない受給者に時間を奪われる。
・受給者から恨まれたり、罵倒されたりすることもある。
・病院や施設など、関係機関から「退院時に迎えにきてください」「家庭訪問してください」などと対応を求められ、忙しいのに丸一日つぶれてしまうことがある。でも、対応しないと「福祉は何もやらない!」と悪者にされてしまう。
・家に帰っても仕事のことが頭から離れず、休日も思い出して嫌な気持ちになることが多い。
・体調は常に悪い。たまには友達と飲みに行きたくても、翌日の仕事のことを考えると早く帰って寝たい。
・同僚や上司、それぞれが自己流で、福祉事務所としてのスタンダードの対応や方針を教えられる人がいない。どこまでやるべきなのかが定かでなく、自分で判断しないといけないので毎回不安。
・辞めたいと思うことはいつもだけど、公務員を辞める決断は簡単ではない。
これらは実際に生活保護ケースワーカーさんから聴いた話です。

※参考記事
▶千葉県の生活保護法指導監督職員研修において、「ケースワーカーの離職と燃え尽きを減らす、管理職の役割と実践法」をテーマに講演を行いました。
▶東京23区の生活保護ケースワーカーを対象に、「メンタルセルフケア」をテーマに講演を行いました。
▶千葉県の生活保護法担当地区担当員研修において、「ケースワーカーの燃え尽きを防ぐ!ストレスに強くなり健康に働き続けるためのストレスマネジメント 」をテーマに講演を行いました。
「割り切らないと回せない」ことで生じる福祉職としての強い葛藤
まだまだたくさん辛いことはあるでしょう。
皆さん、本当に毎日必死だと思うのです。
まさに「サバイバル」という言葉が合うのではないでしょうか。
今日一日が無事に終わるか。
ちゃんとやれるか。
明日のことなんて考える余裕は、ほとんどないのではないかと感じます。
生活保護ケースワーカーの中でも、とくに葛藤が強くなるのは福祉職として採用された方ではないでしょうか。(もちろん、一般事務職の方も相当なストレスだと思います)
なぜなら、「割り切ることが難しい」からです。
あれだけケースの数が多いと、ひとつひとつにじっくりと向き合うというより、事務的な対応をして効率よく裁いていかないと仕事が回らないはずです。
もっと話を聴いてほしそうな受給者の話を遮って、話を終えなければいけない時もある。
なんとか助けてあげたいなと思う受給者がいても、一人にそこまで時間をかけられないので、どうしても十分なサポートができないことなんて日常でしょう。
福祉的なアプローチよりも、事務的な対応を磨いて、割り切らないと回せないのが現実です。
当然ながら、福祉職はそこを割り切るのが難しいのです。
私の印象ですが、役所の福祉職の方は、とにかく優しい人が多いです。
穏やかで、自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先する献身的な方。
困っている人がいれば少しでも力になりたいと思う方。
手を抜くことが苦手な真面目な方。
そんな方たちが、効率を優先して、情に流されずに割り切って働く。
これは、「福祉職としてのアイデンティティ崩壊の危機」ではないでしょうか。
教育もノウハウの蓄積もなく、サポートも乏しい。よって燃え尽きが量産される。
目の前の仕事に毎日追われ
求められるのは「対応の質」ではなくて「対応の量とスピード」
上司や先輩からのアドバイスと言えば、「早く慣れないとね」といった漠然としたものばかり。
こんな毎日を1年も続ければ、燃え尽きてしまうのは、「心が弱い」のではなく、とてもノーマルな反応なのではないかと感じます。
それよりも、自分が燃え尽きていることすらも気づけない人も少なくないはずです。
気づけるほどの正常な反応も麻痺しているかもしれない。
日々戦場にいて、疲弊した状態が普通になるわけですから、自分の健康状態を正確に判断することは困難になるでしょう。
そして、疲れ果てたケースワーカーさんが、なぜ私のセミナーやカウンセリングに辿り着くのか。
それは冒頭にも書きましたが、職場の中でのサポートがあまりにも乏しいからだと感じます。
基本的に若いスタッフが中心で、ノウハウの蓄積もないように思いますし、教育もないところが多い。
「福祉事務所の仕事は大変だ」「若手であれば通る道」の一言で終わらせているのではないかな?
「ここにくればこれが普通」「慣れるしかない」しか言えないのではないでしょうか。
「辛い」「苦しい」「辞めたい」といった気持ちをサポートしてあげられていないから、熱意のある福祉職が抜け殻のように燃え尽きるのではないでしょうか。
がんばっても報われない日々が続くと、自分を「価値のない人間」だと本気で思うようになる。
このブログに辿り着いた生活保護ケースワーカーのあなた
あなたに伝えたいです。
あなたは、十分にがんばっています。
間違いありません。
自分で自分をそう思えないのだとしたら、日々の過酷な業務により、自尊心が低下しているのかもしれません。
どれだけがんばってもがんばっても報われないと、専門家としてだけでなく、人としての存在意義を見失い、自信が下がっていきます。
「私なんてだめだ」「きっと何をやってもうまくいかない」
こんなふうに毎日自分を責めてしまっていませんか。
自分のことを見失っていませんか。
孤立していませんか。
もしそうであれば、少しだけ足を止めて、自分を振り返る時間を持ってほしいなと思います。
生活保護ケースワーカーで燃え尽き傾向にある方
他の同僚のようにさくっと電話を切ることが苦手な方
ついつい話を聴きすぎてしまい対応に時間をとられる方
うまく受給者との距離感をとることが苦手で、家に帰っても気持ちの切り替えが苦手な方
イライラして対応が雑になりやすく、そんな自分を責めてしまっている方
一度カウンセリングを受けて、自分の今の状況やお気持ちを整理してみませんか?
これまで多くの生活保護ケースワーカーの方から、健康問題やキャリア、転職、退職などの相談を受け、支援させて頂いています。
ぜひ、あなたが変わるきっかけづくりのお手伝いをさせてください。
いつでもお待ちしています。
最後に
ここまで読んでいただきありがとうございます。
最後に、生活保護ケースワーカーの方にぜひ読んでほしいブログ記事をひとつ紹介します。
2019年6月に京都府向日市で起きた、ケースワーカーと生活保護受給者による死体遺棄事件。
受給者が殺害した女性の遺体を担当ケースワーカーが一緒に遺棄して逮捕されるという衝撃的な事件で、ケースワーカーの方なら知らない人はいないはずです。
なぜこの事件は起きたのか。生活保護受給者とケースワーカーの間に何が起きていたのか。
ブログで詳しく解説しています。
ぜひ読んでみてください。
京都府向日市のケースワーカーと生活保護受給者による死体遺棄事件はなぜ起きたのか。「過酷な職場環境と事件の関係性」を紐解く。