利用者・患者からの暴言暴力マニュアルの第7回です。
今回は、高圧的な態度で要求を通そうとするクレーマーに対して、どうしてもうまく距離をとることができずに巻き込まれやすい人に「上手に心理的な距離をとる方法」として参考にして頂きたい話をします。
クレーマーに巻き込まれやすい人の特徴と具体的な対応策を一つずつ説明していきますので、ぜひ読んでみてください。
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▶利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアル⑥「暴力に対する職場の限界設定」
※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら
①常に人間関係を円滑に保つことを優先する。
悪質なクレーマーに巻き込まれやすい人の一つの特徴として、「目の前の相手との人間関係を円滑に保つことを常に優先させる」ということが挙げられます。
つまり、相手の要求がどんなに理不尽であっても、「要求を断って人間関係の摩擦が生じることは避けたい」「この利用者さんに嫌われたくない」といった思いが常に優先されやすく、結果として要求を断ることができません。
そのため、相手は「何を言っても断られない」と依存的になりやすく、要求がより強くなっていくというパターンが見られます。
実際にモンスター化した利用者や患者への対応についての相談を受けていると、その利用者さんは「初めからモンスターだったわけではない」ということも少なくないのです。
初めはまだスタッフの言うことを聴き、ルールを守ることができていた人が、なぜモンスターになるのか。
それは、担当のスタッフや職場の責任者が、人間関係の摩擦を避けて対応してきた結果、利用者さんの要求がエスカレートし、結果としてモンスター化してしまったということも多いのです。
利用者さんとの人間関係を良好に保つことはとても大切なことだと思いますが、「相手との摩擦を恐れて何も言えない」のでは、相手からコントロールを受けるリスクが上がります。
このような傾向がある方は、ぜひご自分の人間関係の取り方を振り返り、「自分の気持ち」を大切にした関係が築けるように取り組むことをお勧めします。
具体的な取り組みについては、以下のブログ記事を読んでみてください。
②相手の不満や怒りの責任を背負う。
「私はまだ話したいんだから電話を切るな!わかってんのか!怒らせるなよ!」
このように利用者さんから理不尽に怒りをぶつけられた時に、巻き込まれやすい人は「私が利用者さんを怒らせてしまった」と思い、強く責任を感じてしまいます。
その結果、「私の対応が至らなくてごめんなさい」などと謝って要求を受け入れてしまったり、相手を怒らせないような対応に終始してしまったりするため、距離をとることができずに巻き込まれてしまうのです。
このような傾向にある方は、ぜひ考えてみてください。
利用者さんを怒らせたのは本当にあなたなのでしょうか?
あなたは、利用者さんの怒りの原因であり、その怒りをぶつけられるようなことをしたのでしょうか。
もしもあなたが利用者さんの立場であれば、同じように怒りを表明し、同じように暴言を浴びせたのでしょうか。
自分の要求が通らない時、そこでどのような感情になるかは人それぞれであり、怒りを感じる人もいれば辛さや悲しさを感じる人もいます。
激怒する人もいれば、少しの不満を感じるだけの人もいます。
「無理な要求をして迷惑をかけてしまった」と思う人もいるし、「こんなことですぐにイライラしてしまう自分を治したい」と責任を感じる人もいるはずです。
つまり、あなたの行動がきっかけで相手が怒ったことは事実であっても、その怒りの責任までもあなたが引き受ける必要はないのです。
これがわかっていないと、常に相手の感情に振り回されて疲弊し、燃え尽きのリスクが上がります。
このような傾向にある方は、ぜひ以下のブログ記事を参考にして、相手の感情に振り回されない習慣作りに取り組んでみてください。

③相手を納得させようとして巻き込まれる。
「何度も何度も暴言をやめてほしいと患者さんにお願いしているんですけど、全くわかってもらえなくて。今日も担当のスタッフが朝から色々と絡まれて嫌な思いをしていました。患者さんの訴えには十分に耳を傾けているし、時間もかけて対応しているんです。でも、どうしてもわかってもらえないんです。どうしたら良いでしょうか…」
このようなご相談を受けることがありますが、何度アプローチをしても相手が暴言暴力をやめてくれない原因は、「相手にわかってもらおう」という職場のスタンスそのものであることは少なくありません。
「お願いですからわかってください」と相手にお願いし続けるということは、つまり、暴力を続ける相手に関わり続けるということでもあります。
「わかってください」とお願いされているだけの関係では、相手はその要求を断っても痛くも痒くもないし、より暴言をエスカレートさせる可能性も十分に考えられることでしょう。
つまり、暴言暴力をやめてもらいたければ、「相手を納得させようとするコミュニケーション」から脱却し、相手が変わらない場合は「職場としてのスタンスを明確にして行動に移す」というスタンスに変更をすることも有効だと思います。
例えば、
「すいません、そろそろ時間なんです。今日はもうこれ以上お話が聴けないので電話を切らせていただけませんか?なんとか理解してもらえないでしょうか…」
こういうやりとりを毎回繰り返し、結局電話が切れずに時間が長くなるのは、相手を納得させようとするコミュニケーションです。
このようなやりとりから抜け出すには、次のようにスタンスを変えることです。
「先ほどから何度もお伝えしていますが、今日はもう時間になりました。ご理解いただけないのは残念ですが、電話を切らせて頂きます」(電話を切る)
冷たい印象を与えてしまわないように、相手の人間性や気持ちを十分に尊重して伝えることが大前提です。
職場として十分に対応を重ね、それでも理解してもらえない時は限界を設定しなければなりません。
これについても以下のブログ記事を参考にしてみてください。
④不安や恐怖と付き合えず、今すぐに「安心」に変えたいと思う。
相手から強い口調で責められたり怒りを向けられたりすることは、とても不安であり、強い苦痛や恐怖を体験するものだと思います。
そのため、緊張して冷静な対応ができなくなるのは無理もないことではありますが、それでも、できるだけ落ち着いて的確な行動ができるようになりたいですよね。
ここで必要になるのは「不安や恐怖と付き合う力」です。
「怖いなー」「不安だな」と思っても、「まあ、怒られるだろうけど無理なものは無理と言うしかないな」と思って行動に移すことは、つまり、感情にできるだけ影響されずに行動することができるということです。
これがうまくできない人は、不安に感じるとその不安に飲み込まれてしまい、行動のコントロールを失ってしまいます。
不安だし怖いから、ついつい相手の顔色を窺うことをやめられず、慌てて衝動的な対応をしてしまい、結果として相手に巻き込まれてしまうのです。
このような課題を抱えていると思う方は、以下のブログ記事を読んで、振り返りをしてみてください。
一方で、この「不安や恐怖に付き合う力」を職場が個人の問題にしてしまうことはとても危険です。
職場が暴力被害に対する理解があり、被害を受けたスタッフをサポートする体制や、クレーマーに的確に対応する環境が整っていれば、「不安だし怖いけど、上司や同僚が助けれくれるからちゃんと対応しよう!」という勇気が湧いてきますよね。
でも、被害を受けても誰からも声をかけてもらえなかったり、役職者がサポートをしてくれないような環境に置かれれば、孤立感が増して不安や恐怖は倍増します。
クレーマー対応を現場任せにせず、職場全体で対応をしてくという環境を整えることで、スタッフ一人一人の安心感が増し、より冷静で適切な行動がとれるようになるのです。
ここまで読んでみて、いかがでしょうか。
クレーマー対応が苦手で、うまく距離がとれずに疲れてストレスを感じてしまうという方は、相手との関係を通して自己理解を深め、課題を整理してみるだけでも、負担を大きく軽減できるきっかけを作れるかもしれません。
ぜひ、できるところから取り組んでみてください。
さて、ここまで全7回に渡り連載してきた暴言暴力への対応マニュアルなのですが、最後に私が伝えたいことは、実際に暴言暴力を行う相手への具体的な対応方法になります。
・心理的な距離を保つ具体的な方法
・今すぐできる、「困った利用者」への効果的な対応方法
このようなことを、クレームの場面などに応じて、具体的に解説をしたいなと考えていました。
ただ、本当に申し訳ないのですが、具体的な対応方法をこのブログで公にすることはあまり適切ではないなと感じまして、ここから先はセミナーにお申込みいただいた方にお話をさせて頂くことにしました。(本当にすいません!)
ついては、今回で暴言暴力への対応マニュアルの連載は終了とさせて頂き、より具体的なことを知りたい方は、こちらのセミナーにぜひお申込み頂きたいです。
職場の安全を守り離職を減らす!対人援助職のためのクレーマー、暴力対応セミナー
こちらのセミナーは動画で受講可能です!
【ダイジェスト動画】
参考までに、受講された方の感想を紹介いたします。
・講師自身の経験を交えてお話があったので、共感できてわかりやすかった。考え方が理解できたので対処しやすくなると思います。特に対応困難者に対する対処方は秀逸でした。
・ユニークな話を織り混ぜながらの大変わかりやすい講義でした。この2時間がカウンセリングそのものでした。組織のトップから同じ考え方が出来てなければ成り立たないと思われます。その風土をどう作り上げるかが大問題。
・興味深い内容でした。自分を振り返るきっかけとなりました。「困った相談者」の対処法が具体的で、使ってみようと思いました。
・クレーマー対応事例集がかなり具体的でよかった。すぐに使える資料があると実務に役立つのでまたやってほしい。
・公私にわたり、自分が共依存である関係となっていることを感じられました。しっかり自尊心をもって対応していこうと思います。
・どの内容もわかりやすく、今後の参考になるものでした。自分と職場、相互の人間関係を向上させていきたいと思いました。
・山崎先生の暴力被害の体験談と、それに伴う援助職としての葛藤に心から共感できました。こういう話を同僚ともじっくりしたいなと思いました。
・「役所なら何でもやって」という要求が多いが、出来ませんと言えることを改めて感じました。
・クレームや暴力に対応するのは本当に大変ですが、今回のセミナーで、仕事としてどう対応するか、と、人として悪質なクレームに対応して傷ついた自分をどうケアするか、とは別に考えなければならない事を学びました。このような事を教えてくれるところは他にありませんでさした。また今回のセミナーで、自分の対人援助のスタイルの傾向というか、自己理解もできました。
・対応が難しいケースに対しての対策案を、具体的にパターン分けして、教えて下さったので、とても参考になりました。今回の内容を知っているだけで、理不尽に遭遇した時に、少しは冷静に客観視できるような気がします。自己理解を大切にしようと感じました。
・日々の業務で感じている事を吐き出せたような感覚になって、参加して良かったと凄く思いました。大学の授業でもここまで詳しく向き合わなかったため、現場を経験してからこそ、向き合える内容でした
・今、私が苦しんでいる体調不良が、誰にでも起こり得る急性ストレス反応であると知って、ほっと安心しました。2ヶ月間毎日、2~4h暴言で揺さぶられ、辛かったです。もう2ヶ月以上経っているので、もうPTSD化しているのだなと思った。
・まさに自身が直面している問題の分野のため、今後のケースワーク業務に携わりたいと思いました。ショックを受けた際に、無理するのではなく、ストレスを認めて、ゆっくり休みを取ることも大切なのだと学びました。
・暴力的な言動に対して、間をとって対応すること、心理的な距離感を保って対応することを心掛けていきたいと思います。
・バウンダリーを保ち、共依存の関係を作らないように注意することが大事。職場で、電話の時間の目安等を決める事も、策であると感じた。
ここまで、感想を紹介いたしました。
皆様の職場が、少しでも安全で働きやすい環境になるように。
熱意ある援助職が理不尽に傷つけられ、燃え尽きて退職してしまうことを防ぐことができるように。
そのような思いから、今回のブログを書いていきました。
私が書いた内容が、少しでも皆様のお役に立つことができることを願っております。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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