利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアル③「悪質なクレーマーが多用しやすい5つのコントロール法」

 

利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアルの第3回です。

 

今回は、いわゆる「悪質なクレーマー」「モンスター患者、モンスター利用者」などと呼ばれてしまう人たちが、相手をコントロールするためによく行う手法(行動のパターン)を紹介したいと思います。

 

先に断っておきますが、今日紹介する手法は、相手がモンスターかどうかを判別するものではありません。

 

障害や病気などの影響で、悪意なく無自覚にやってしまっていることもよくありますので、「このブログに書いてある行動に当てはまるから、あの患者はきっとモンスターだ!」などと決めつけて相手への敬意を欠く対応をとることのないよう、取り扱いにはくれぐれもご注意ください。

 

あくまでも、援助職が暴力の関係に巻き込まれずに、職場として適確な対応がとれるようになることを目的にブログを書いています。そこをご確認の上、読んでいただけると嬉しいです。

 

※関連記事

▶利用者・患者からの暴言暴力マニュアル①「管理職が知らないとまずい、安全衛生管理の法知識」

▶利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアル②「バウンダリー(境界線)を切り口にした関係性の理解」

 

※ブログ執筆者  AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは  こちら 


①ダブルバインド(二重拘束)

ダブルバインドとは、二つの矛盾したメッセージで相手を縛り付けることです。

 

例えば、「黙ってないで何とか言ってみたらどうだ!」と患者が看護師を怒る。

 

看護師が恐る恐る自分の意見を言うと、「なんだその言い方は!生意気なこと言うな!」とさらに怒る。

 

そこで看護師が怖くて黙ると、「また黙ったよ。なんなんだ全く!」と怒る。

 

結局は何をやっても怒られるわけですが、力関係があると相手に矛盾を指摘できないですよね。

 

だから、その矛盾した状態から逃れることができず、その間はコントロールを受け続けます。

 

これは経験したことがある方ならわかると思いますが、相当に強いストレスを受け、深く傷つきます。

 

※関連記事

▶バウンダリー(境界線)基礎講座7日目「ダブルバインド」 


②怒った後に急に優しくして、相手を揺さぶる。

人間は、恐怖を感じる相手から急に優しくされると、なぜかとても嬉しくなることがあります。

 

毎日毎日暴言を吐き、悪態をつく利用者が、急にあなたに「ありがとうね。あなたがいないと私なんて今頃どうなってるか。他の看護師は私が嫌でみんな家に来なくなっちゃったから、あなただけだよ。これからもよろしくね」と普段見せない優しい一面を見せる。

 

普段その利用者には恐怖と嫌悪感しかなかった訪問看護師が、予期せぬ言葉に喜びを感じ、「この人は本当は優しい人なんだ!」「私しかこの人のことを理解してあげられない!」と巻き込まれて自分から距離を縮める。

 

それでこの利用者の暴力がなくなればそれでいいんでしょうけど、実はそんなに綺麗に話は終わらず、そこから暴力行為がエスカレートすることも珍しくありません。 

 

暴力行為 → 優しくして一時的に良い関係になる → 再び暴力行為 → また優しくする

 

まさにDVの関係と同じです。

 

前に私が勤めた職場でも同じようなことがありました。

 

ある暴力的な患者さんを「職場としてお断りするべきだ」という意見がスタッフの中で大多数を占めていたのですが、「あの患者さんはとても心が優しい人なんです」と主張して、断固として反対する看護師さんがいました。

 

実はその看護師こそ、その患者さんから最も被害を受けていた担当看護師だったのです。

 

その患者さんは怒ったり優しくしたりという二面性が激しく、この看護師は揺さぶられ、見事に巻き込まれていたのだと思います。


③管理職など、「お断りする権限」がある人には従順。弱い立場の現場のスタッフには強気。

 

普段、悪質なクレーマー対応の相談を受けていると、「この人は他のところでも迷惑行為をして、いくつかお断りされてきてるんだろうな」と感じることがあります。

 

そういう人の特徴としては、現場のスタッフには超強気の一方で、役職者などが出てくると急に物分かりがよくなったり、さっきまでの勢いがトーンダウンしたりすることがある、ということです。

 

きっと、「役職者が出てくると、クレーマーと認定されて組織的な対応をされるリスクがある」とわかっているのだと思います。

 

そういう人は、できるだけ権限を持たない現場のスタッフと密な関係を築き、コントロールをしようとする傾向があります。

 

そして、スタッフが困って役職者に相談し、役職者が出てくると手の平を返したかのように大人しくなる。

 

こんなパターンはよく見られます。

 

ここで最も大切なことは、「役職者が巻き込まれないこと」です。

 

クレーマーと良い関係を築くことができた看護長が、「話をしてみたら、あの人素直で悪い人じゃないじゃないの。みんな大騒ぎしすぎよ。もっと患者さんの気持ちに寄り添って聴いてあげないと」と、スタッフの対応の問題として終えてしまう。

 

これは本当によくある「悲劇」で、これを続けると現場のスタッフは上司に絶望して辞めていきます。

 

現場を混乱に陥れるクレーマーと役職者が良い関係を築けた時、意識すべきことはひとつ。

 

「クレーマー対応がうまくいったのは私の対応が良かったからとは言い切れない。私には役職者というパワーがあるからうまくいった可能性が十分にある」と思ってください。


④「死」を想起させる発言をして、援助職の不安を煽る。

 

「そんな対応をされると、死にたくなっちゃうんです」

 

「うつ病だからできるだけ楽に過ごすようにと主治医から言われています。そちらの対応で、私がショックを受けて自殺してしまうようなことがあったら、責任とれるんですか?」

 

このような言葉を投げかけられ、相手の術中にハマりコントロールを受けている援助職は少なくありません。(もちろん、本当に死にたいという思いで言っている人もいるので、ケースバイケースです。今回は悪質なクレーマーに限定して説明していますのでご理解ください) 

 

例えば、訪問介護ヘルパーが精神科に通院中の利用者から無理な要求をされ、断るたびに「自殺したくなる」と言われ、怖くて相手の要求に従ってしまう。

 

こういうことはよくあります。

 

これについて簡単に助言すると、できない要求ははっきりと断るべきです。

 

そこで死にたいと言われた場合、「死にたいという気持ちを和らげるために、相手の無理な要求に応じること」は介護職の役割ではありません。

 

大切なのは、すぐに関係者と情報を共有して対応を検討すること。

 

これが原則です。 

 

「要求を断ると希死念慮が強くなる利用者さんに、組織としてどこまで関わるのか」「今後もサービスを提供することが可能なのか」という問題として捉えましょう。 

 

相手に悪意があるかどうかは関係なく、「死にたい」と訴える利用者への対応は、ヘルパーが一人で抱え込んであれこれ頭を悩ませる問題ではないことを肝に銘じてください。

 

ただ、もしもあなたが利用者さんの顔色が気になって仕方がなくて、「死にたい」と言われると怖くて抱え込んでしまうことをやめられない場合は、一度「共依存」を切り口にご自分を振り返ってみることをお勧めします。

 

以下のサイトで共依存を学んでみてください。

共依存を克服するカウンセリング【東京・新宿】


⑤「今すぐに」要求に応じることを求める。

悪質なクレーマーは、相手に「間(ま)」を与えることをしない、というのが私の印象です。

 

「私は〇〇を望んでいるので、職場の方で検討してもらえませんか?」

 

「私が望んでいたサービスとは違うので、一度説明をお願いしたいんですが…」

  

コミュニケーションがとりやすいお客さんは、このように、こちらに時間的なゆとりを与えてくれますよね。

 

急いでいる場合も「忙しいとは思いますが、できれば早めにお願いしたいんです」と言ってくれると思います。

 

尊重されている感覚が得られて、信頼関係を築きやすいでよね。

 

一方で、こちらはどうでしょうか。

 

「できる?できない?私が困っているんだから、今すぐに返事をしなさい」

 

「それならあなた達は何のためにいるんですか?根拠を教えてください。早く答えなさい」

 

このように、「今すぐに」返答を求めるため、相手に与えるプレシャーがかなり強くなります。

 

これをやられると、焦って一気に緊張感が強くなり、心臓がドキドキして呼吸が浅く苦しくなり、冷静な対応が困難になりますよね。

 

こういう場合は、相手に巻き込まれないようにするために「間」を作ることに専念する方法がお勧めです。

 

「大切なことですから、上司に報告して検討させてください。一度電話を切らせていただきますね」

 

「お急ぎなのはわかりましたが、職場として回答しますのでお時間を頂きます」

 

「私一人で決められることではありませんので、改めてお返事させてください」

 

それでも相手は怒ると思いますが、慌てて回答をして上げ足を取られるよりはマシです。

 

とにかく、間をつくることを意識しましょう。

 

※関連記事 

◆共依存を克服する方法②「間(ま)を作り、自分の気持ちを確認する」

◆共依存を克服する方法⑥「相手を納得させようとするコミュニケーションからの脱却」


ここまで読んでみて、いかがでしょうか。

 

どのタイプも手ごわくて、怖くて、スムーズな対応が難しいですよね。

 

ただ、暴力的な利用者への対応は、ドラマのようにスムーズに上手にできるようになる必要はありません。

 

戸惑って、恐れて、緊張して、うまく言葉が出ない。

 

家に帰ってから「〇〇と言っておけば良かったのに」と自分の対応を悔やむ。

 

これが普通だと私は思います。

 

緊張すると、人間は頭が真っ白になるし、落ち着いた行動はできませんから、仕方がないです。

 

だからこそ、職場で全員が力を合わせて対応しましょう。

 

自分たちが置かれている状況や、相手との関係性などを正しく理解して、みんなで乗り越えること。

 

担当者を一人にしないこと。

 

この意識が大切です。

 

それでは、また次回に続きます。

 

続きはこちら

利用者・患者からの暴言暴力への対応マニュアル④「暴力被害を仕事の一部にしてしまう職場の特徴」とは