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「NGT48事件」から学ぶ、対人援助職の共依存がもたらす、離職・燃え尽き問題の構造と対処法

  

今回はNGT48事件で起きた問題の構造をベースに、対人援助の現場で起きるトラブルを解説します。

 

先月、NGT48の山口真帆さんへのファンによる暴行事件が明らかになりました。

 

この事件で私が最もショックを受けたのは、仲間であるはずのメンバーが、加害者に山口さんの帰宅時間を教えるなど犯行に関わっていたということです。

 

「殺されるかもしれない」という強い恐怖

 

実際に受けた暴行

 

これだけでも、計り知れないほどの苦痛で、一生の傷です。

 

それに加えて、相手がファンであったこと。

 

そして、仲間が犯行の一部に加担していたこと。

 

守ってくれるはずの運営がしかるべき対応をしてくれなかったこと。

 

事件から一ヶ月、何事もなかったようにアイドルを続けなければならなかったこと。

 

いつまた自宅に誰かが襲ってくるかわからない恐怖の中で生活を続けること。

 

動画配信サイトやツイッターで事実を告白したのも、とてつもない勇気とエネルギーを要したはずです。

 

想像を絶する、まさに筆舌に尽くしがたい地獄です。

 

詳しい事情はもちろんわかりませんが、報道を見る限り、背景に日頃のメンバー同士の確執があったことが見て取れます。

 

※メンバー同士の確執について報じた記事を一部抜粋します。

 

 新潟を拠点に活動するアイドルグループ「NGT48」のメンバー山口真帆(23)が、暴走ファン2人に襲われた事件の背景には、“メンバー間の確執”がある。

 山口に暴行した疑いで逮捕された2人(不起訴処分)で、主犯とみられる1人は「話をしたかった」などと警察の調べに山口のファンと説明していたが、別メンバーの熱狂的ファンとして、地元では有名な存在だったという。

 「襲撃した2人は、山口と対立していたメンバーの熱狂的ファンで、非常に関係も密だった。『風紀の乱れ』を疑問に感じていた山口は、過去にも何度もそのことを運営サイドに報告していた。疎ましく感じたグループと山口との対立の溝はどんどん深まっていった」(関係者)

 

メンバー同士の確執から、メンバーとファンが一緒になってひとりのメンバーに危害を与えた。

 

そして、運営がしかるべき対応をとらず、さらに被害者を傷つけた。

 

これについて私が感じたのは、「介護現場を初めとした対人援助の現場で起きるトラブルに構造が似ているな」ということです。

 

※ブログ執筆者  AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは  こちら 


介護現場で実際に起きたヘルパーの暴言被害と退職問題

NGT事件とよく似た援助職の現場でのトラブルについて、事例を挙げて説明してみます。

 

ある訪問介護事業所での話。

 

ヘルパーAさんは、元々自分に自信がなく、いつも自分の仕事ぶりが利用者さんにどう思われているのかが心配でした。

 

「利用者さんに嫌われたくない」「必要とされたい」

 

こんな強い思いを抱えて仕事をしているAさんは、利用者さんに少しでも満足してもらうため、支援の内容が他のヘルパーよりも手厚くなりやすく、時にはプライベートの携帯番号を教えてしまうなど、関係がとても密になりやすいところがありました。

 

利用者の山田さん(男性)は、そんなヘルパーAさんが大好きでした。

 

「他のヘルパーとは違ってとても親切」「他のヘルパーは頼んでもお酒を買ってきてくれないのに、Aさんは買ってきてくれる」

 

山田さんはAさんに感謝し、その一方で他のヘルパーには不満を覚えていました。

 

職場では…

 

ヘルパーBさんは、Aさんの仕事ぶりを疑問に思っていました。

 

Bさんが山田さん宅を訪問しても、最近Aさんと比べられてしまい良い関係を築けません。

 

その背景に、Aさんの「やりすぎ」の問題があることは明らかで、Bさんはこれまで何度か管理者に相談していました。

 

ただ、管理者はAさんに何も言ってくれていないのか、状況は一向に変わりませんでした。

 

そして…

 

Bさんは、どういうわけかAさんに避けられるようになっていきます。

 

挨拶をしてもそっけない。

 

山田さんの情報共有をしようとしても面倒くさそう。

 

これでは仕事がしづらいので、Bさんは再度管理者に相談します。

 

管理者は「わかりました。どこまでわかってくれるかわからないけど、Aさんには言っておくね」と、少々頼りないながらも指摘してくれることになりました。

 

それから一週間後…

 

山田さん宅を訪問したBさん。

 

そこには、いつもよりも明らかに威圧的な山田さんが待っていました。

 

声をかけても一切返事がない。

 

緊張感に包まれる部屋の中。

 

Bさんはなんだか怖くて、呼吸がしづらく感じ、胸が潰されそうでした。

 

それでも、なんとかヘルパーとしての役割を果たさなければと思い、山田さんに一生懸命に話しかけるBさん。

 

すると

 

「うるさい!おまえなんて帰れ!Aさんのことを職場に悪く言いやがって!もう二度と来るな!」

 

物凄い剣幕と怒気で圧倒され、Bさんは恐怖で身動きがとれなくなりました。

 

それから数日後…

Bさんは仕事に行こうとすると強い吐き気がして、仕事を休むようになりました。

 

管理者には山田さん宅で起きたことを全て報告しましたが、どうも職場としてきちんと対応してくれているような感じはしません。

 

同僚の話では、今でもAさんは山田さん宅を普通に訪問しているようで、山田さんとの親密な関係は続いているとのことでした。 

 

Bさんはとても傷つき、絶望し、退職を決意しました。


援助職が、「援助職として必要とされる必要がある」共依存の関係

 

当然のことですが、アイドルはファンに、援助職は利用者さんや患者さんに必要とされることで、自身の存在意義を確認できます。

 

だから、利用者さんへの支援を通じて「あなたが担当で良かった!」と感謝してもらえることに喜びを覚えることは、とても自然のことですよね。

 

ただし、「必要とされたい」「私が担当で良かったと思ってほしい」という思いが強すぎると、支援そのものの目的が変わってしまうことがあります。

 

つまり、利用者さんへの支援の目的が、「利用者さんのため」ではなく「私を好きになってもらうため」に変わる。

 

結果として、「相手から感謝の気持ちを引き出すことが目的」になり、まるで家族や恋人のように密な関係に変わってしまうのです。

 

このように、援助職が「援助職として必要とされる必要」があり、過剰に相手の世話をするなどして相手から求められる状況を作り出す関係性を、共依存の関係と言います。

 

アイドルが「ファンに好きになってもらうことを目的に活動する」のは当然ですよね。

 

ただ、対人援助職がこれをやってしまうと、ファンと近い距離間で活動するアイドル同様、とても大きなリスクを抱えることになります。


共依存タイプの「やりすぎ援助職」を放置することで起きる「人間関係の摩擦」と「利用者のクレーマー化」

 

共依存傾向の援助職が起こしやすい問題として、支援の内容が家族や恋人のように親密なものになりやすく、他のスタッフと足並みをそろえられないことが挙げられます。

 

以下、具体例を挙げてみます。

 

・電話相談は30分までと職場で定めているのに、毎回50分は話を聴いてしまう電話相談員。

 

・利用者さんにプライベートの携帯番号を教えてしまうヘルパー。

 

・本来は家族やスタッフで共有するべき利用者さんの情報を「みんなには絶対内緒にするね」なんて言って、あえて一人で抱える訪問看護師。

 

こういう支援を1人がしてしまうと、当たり前のことですが、利用者さんは他のスタッフに不満を抱きやすくなります。

 

結果として、その利用者さんは自分でできることをやらなくなったり。

 

要求が増え、他のスタッフを受け付けなくなったり。

 

クレームや暴言を受けたり、担当交代を要求されたり。

 

様々なトラブルが増えていきます。

 

そして、そんなトラブルの多さに比例して、職場の人間関係の摩擦も確実に増えていきます。

 

「Aさんがやりすぎだからこうなる!」と憤るBさん。

 

「私は本当に必要なことをやってるだけなのに。やっぱりあの利用者さんには私が必要だ。Bさんには任せておけない」と反発するAさん。

 

それに加え、問題に介入しようとしない管理職への不満も強くなります。

 

コミュニケーションが減り、派閥ができ、無視や陰口、嫌がらせ、口論など、本来助け合うべき仲間同士で問題が頻発します。 

  

これが日常になる職場では、燃え尽きや退職が量産されていきます。


解決策は、管理職による「早期介入」と「日常的なスタッフへの心理的サポート」

 

ここまで読んで、「うちの職場でもまさに似たような問題が起きている!」と思った援助職の方は少なくないはずです。

 

それだけ、共依存関係から派生するトラブルは、介護現場のみならず、障がい者施設、医療機関、相談機関などの援助職の現場では「あるある」なのです。

 

このようなトラブルを早期に解決するポイントはとてもシンプルです。

 

それは、管理職がきちんと介入し、支援の内容を定期的に確認すること。

 

そこで職場として認められない行動をとっているスタッフがいれば指導して改めさせること。

 

これに尽きます。

 

とても単純なことではありますが、できていない職場が多いので「あるあるネタ」になるのです。

 

管理職が介入しない理由は、大きく2つに分けられます。

 

ひとつは、管理職自身が問題の本質に気づいていなこと。

 

この場合、

 

「あの利用者さん、最近文句が多くて大変だなー」

 

「最近どうもスタッフ同士がギクシャクしてるなー。退職者も多いし、早く人を補充しなきゃほんとにまずいぞ」くらいの認識にしか至っていません。

 

言うまでもなく、共依存の構造に気づいて介入しないと、いくら人を補充しても問題が繰り返されてしまいます。

 

2つ目は、管理職自身が共依存傾向にあり、スタッフに嫌われるのが怖くて真っ当な指導ができないということ。

 

「注意したら辞めちゃわないですかね?」なんていう質問もよく受けます。

 

気持ちはわかりますが、スタッフの機嫌をとることよりも、問題を放置することのリスクを考えるべきだと思います。

 

共依存、恐るべしですね。

 

最後に

 

スタッフと利用者の共依存を防ぐには、職場で孤立させないことが大切です。

 

職場での人間関係に疲弊したり、助けてくれる仲間がいなかったりすると、援助職はその傷を利用者さんで癒そうとします。

 

管理職がこまめに声がけをし、日常的に関心を示すこと。

 

困っていることがあれば相談にのり、良い関係を築くこと。 

  

当たり前のことですが、「管理職が管理職の役割を果たすこと」が、共依存を防ぎ、より安全で働きやすい職場づくりに繋がるのです。