今日は、クレームについて話をします。
前に、精神障害者の自立支援センターで働く相談員の方からこんな相談を受けました。
担当している利用者さんが、急に施設に来なくなったんです。ついこの前まではとても楽しそうに他のメンバーと交流していたし、私や他のスタッフとの関係も良好でした
それが連絡なく来所しないので、心配になって電話をかけたんです。そしたらすぐに電話に出たんですけど、声がとても暗くて。どうしたんですか?と質問したら、なんと、『僕が行かないのはあなたのことを信用できないからです』と言うんですよ
いきなりそんなことを言われて、とにかくびっくりしちゃって。それで、え?どうしてですか?と聴いたんです。そしたら
『あなたが僕のことを疑ったからです。仮病を使ったと疑いましたよね。僕は本当に具合が悪いのに。お菓子作りに出れないくらい具合が悪いから横になりたいと言ったのに。熱があるのかとか、いつから調子が悪いのかとか、あれこれ聴きましたよね?具合が悪いって言ってるのに、なんでそんなこと聞かれるんだろう。疑われてるんだなと思いました』
こう言うんですよ。私はただ心配だから色々聴いたんですけど、まさかそんなふうにとられているとは。慌てちゃって。そんなことないですよ!心配だったんですよ!って何度も言ったんですけどだめで。一生懸命説明したんですけどダメでした。
結局、「もういいです」と言われちゃって。その後、その利用者さんは来所してるんですけど、関係はギクシャクしたまま。他のスタッフとは話してますけど、どうも私とはダメですね。
上司や同僚は「気にしなくていい」と言ってくれます。
でも、私ってどうもこういうのが苦手で。利用者さんに不満を言われたり、家族からクレームを受けたりすると、どうもうまく対応できなくて。
一生懸命説明しても、こじれるんですよ。余計に怒られるというか。本当に苦手ですね、こういうの。

援助職の方であれば、どの分野であれ、利用者さんや患者さん、またはその家族から責められたリ、クレームや苦情を受けたりすることはありますよね。
クレームや苦情って、私もとても苦手でした。
特にまだキャリアが浅くて自分に自信がない時なんて、自分の対応について患者さんから不満を表明されると本当に焦り、混乱しました。
そんなつもりで言ったんじゃない、わかってほしい、納得してほしい。この場を治めたい。
こんな気持ちと同様に、クレームを受けた事実を「上司や同僚からどう思われるだろうか」と不安でたまらなくなりました。
だから余計に焦って、相手に納得してもらおうと一生懸命説明するんです。
「違うんですよ」
「そんなつもりではないんです」
「でも、〇〇さんがこう言いましたよね?だから私は…」と、なる。
あなたはどうですか?
実は、これこそが「クレームや苦情を余計にこじらせてしまう人」にありがちな対応なのだと感じます。
詳しく説明する前に、「クレームをこじらせやすい人」と「クレームに上手に対応する人」の対応事例を紹介します。
2つを比べてみてください。
※ブログ執筆者 AIDERS 代表 山﨑正徳のプロフィールは こちら
不満を訴える利用者さんとの関係をこじらせやすい人

利用者「あなたのことが信用できません」
相談員「ちょっと待ってください。どうしてですか?私がこの前何かしましたか?」
利用者「僕が体調が悪いから午後のプログラムには参加できないと言ったのに、僕のことを疑いましたよね。『熱は?』『いつから具合が悪いの?』と言いましたよね。あの時、僕は思いました。あ、僕のことを信用してないんだな。僕が嘘をついていると思われているんだなって」
相談員「え?嘘だなんて思っていませんよ。心配だっただけですよ」
利用者「そんなことないと思います。前にも同じようなことはありました。体調が悪いと言っているのに」
相談員「え?いつですか?」
利用者「忘れました。とにかく信用できないんです。もう嫌になりました」
相談員「違いますよ。信用してないなんてことないです。前に具合が悪くて何日も引きこもって連絡がとれなくなることがありましたよね?だからそうなってはいけないと思って…」
利用者「僕だって引きこもることくらいありますよ。一体なんなんですか?」
相談員「え?それが心配だったので…」
利用者「もういいです!」
不満を訴える利用者さんに上手に対応する人

利用者「あなたのことが信用できません」
相談員「え?あ、そうですか…。理由を聴かせて頂けませんか?」
利用者「僕が体調が悪いから午後のプログラムには参加できないと言ったのに、僕のことを疑いましたよね。『熱は?』『いつから具合が悪いの?』と言いましたよね。あの時、僕は思いました。あ、僕のことを信用してないんだな。僕が嘘をついていると思われているんだなって」
相談員「あ、あの時のやりとりですか。はい、確かに私は言いましたね。熱があるのかとか、いつから具合が悪いのかとか、質問しましたね」
利用者「そうです。僕が具合が悪いと言ってるのに、あれこれ詮索して」
相談員「そうですか…。私は〇〇さんのことを心配に思って質問したんですけど、それが〇〇さんにとっては信用されていないと感じたんですね」
利用者「はい。こっちは具合が悪いと言っているのに」
相談員「そうでしたか。全く私はそんなことに気づいてませんでした。だから、今とても驚いています。具合が悪いのに負担をかけちゃいましたね」
利用者「まあ…はい、そうです」
相談員「私としては、決してそんなつもりで言ったわけではないんですが、それはわかってもらえませんか?」
利用者「でも、前にも同じようなことがありました。私が具合が悪いのに、毎回毎回色々聴いてくるんだなと思って」
相談員「前から不満に思っていたんですね。全然気づきませんでした。今回言っていただいて良かったです」
利用者「まあ、はい…」
相談員「私にその話はしづらかったですか?」
利用者「まあ…そうですね」
相談員「そうですか。前から不満だったなら、なおさらこの間のやりとりは負担だっただろうなと思いました。確かに、来たくなくなりますね」
利用者「その場で言えるようになれればいいんでしょうけどね」
相談員「その場で言うのは難しいですか?」
利用者「苦手ですね…」
相談員「そうですか…。そのために何か私にお手伝いできることってありませんかね?」
利用者「うーん…」
相談員「じゃあ、今度ゆっくり話しましょう」
利用者「はい」
この二つの対応を比べてみて、どんなことを感じますか?
前者と後者の違いを、よく考えてみましょう。
決定的な違い、わかりますか?
なんとなくわかりますよね。
そうです。
前者と後者の違いは、「真摯に相手の話(気持ち)を聴いているか、否か」です。
前者の対応は、相談員が一生懸命に説明しています。わかってもらおうと必死になっています。
気持ちは痛いほどによくわかります。
でも、実はこれが落とし穴。
なぜなら、「説明しよう、わかってもらおう」とすればするほど、相手の話を聴けなくなってしまうからです。
言うまでもなく、「わかってもらおう」という気持ちが強いわけですから、「聴く」よりも「伝える」ことが中心になります。
大きな誤解があったり、相手が本当に具体的な説明を求めているなら、これでうまくいく可能性はあります。
あなたの必死な説明により、誤解が解けることはあるでしょう。
ただし、「そうではない場合」、溝がより深まり関係が悪化するはずです。
そうではない場合とは
それは、相手があなたに「気持ちをわかってもらいたい時」です。
「不満や怒り、悲しみをわかってほしいクレーム」もある。
私はカウンセラーなので、相談者であるクライエントの方から、不満を表明されることは少なからずあります。
そんな時、私は、まずは「相手は私にわかってほしい気持ちがある」という前提で話を聴いています。
カウンセラーなので当然といえば当然ですが、意外とこれができないカウンセラーもいます。
先ほどの前者のように、一生懸命に説明し、弁解する。
そして、より関係が悪化します。
こういう対応をしてしまう人たちの特徴を一言で言うと、『不満を表明されると、すぐに「責められている」と受け取る人』ですね。
「何をわかってほしいのかな?」「どんな気持ちなのかな?」と相手に関心を示すのではなく
「私は責められている」「否定された」と捉えるわけですから、当然話を聴けなくなります。
話が聴けないのですから、相手の本当の気持ちにいつまでもたどり着けず、共有できない。
だから毎回うまくいかないのです。
相手は必ずしもあなたを責めたいわけではない。
あなたを傷つけたいほど強い怒りを持っているわけではない。
必ずしも、具体的な改善を求めているわけではない。
あなたにわかってもらいたい気持ちがある。
あなたに理解してほしい不満や悲しみ、辛さがある。
この気持ちを正しく理解することで、苦情をきっかけにより良い関係を築けることだってあるのです。

不満を表明されたら、「落ち着いて」相手の気持ちを「一緒に」確認すること。
不満を表明された時に、普段私が意識していることをまとめてみました。
① 相手に誤解があっても、こちらに正当性があっても、すぐに弁解しない。
② 相手の話を途中で遮るようなことはしない。じっくりと話を聴くこと。
③ 相手が不満に感じた経緯と場面ごとの気持ちを丁寧に確認する。
④ 「なぜですか?」「どうしてですか?」という質問は、相手にとっては「責められている」ように感じやすいので控える。「きちんと理解したいので、そう感じた理由を教えて頂けませんか?」の方が安全で丁寧。
⑤ 相手の不満に共感する。
※「共感」というのは「こちらの否を認める」とは違う。あたかも相手の気持ちになって、「私が言ったことをそのように受け取ったのであれば、辛いですね」と気持ちに寄り添うイメージ。
⑥ (当然ですが)こちらに否がある点は素直に謝る。
⑦ 自分の考えや気持ちを伝える時は、正当性を主張するような言い回しは可能な範囲で避ける。(相手が責められている、否定されていると捉えやすいから)
※例えば…
「前に具合が悪くて何日も引きこもって連絡がとれなくなることがありましたよね?だからそうなってはいけないと思って…」という言い方は、「私を心配させたのはあなただ」というふうにも聞こえませんか?
一方で、「〇〇さんが前に何日も具合が悪くて連絡をとれないことがあったので、私はそれがとても気がかりだったし、今回も心配になったんです。それで詳しく聴きました」という言い方は、「私が心配になったんだ」と自分の感情を自分の責任にしているので、相手にとって負担をかけません。
⑧不満を表明するやりとり自体への労いと共感をする。
「勇気を出して伝えて頂きありがとうございます」「これまで言えずにいたのは負担でしたね」

ざっとまとめてみるとこんなところかなと思います。良かったら参考にしてみてください。
初めはうまくできなくて当然ですので、できることから試してみましょう。
最後になりますが、大事な話をします。
当然のことではありますが、上記の対応を冷静にこなすには、大前提として「職場の安全」が大切なんですよね。
ここで言う「職場の安全」とは、クレームを受けたスタッフを上司や同僚がサポートすることです。
「大変だったね」
「いきなり言われると焦るから余計なこと言っちゃうよね。私もあったな、そういうこと」
「今度〇〇さんが来たら、私からもよく言っておくよ」
こういう声掛けやサポートは本当にありがたく、救われます。
そして、「困ったら上司や同僚がサポートしてくれる」ことを理解しているからこそ、目の前の利用者の不満に落ち着いて対応できるのです。
このサポートがなければ、私でもクレームを受けると焦り、不安になるでしょう。
例えば、
・上司が利用者や患者にやたらと同情的で距離が近く、その一方で部下であるスタッフを信用していない。クレームがあるとスタッフの言い分を全く聞かずに、一方的にスタッフを責めて反省を促す。
・スタッフ同士が疑心暗鬼で人間関係が悪く、あるスタッフがクレームを受けると「ざまあみろ」と心の中で喜ぶ。表面的には「大丈夫?」などと声をかけてくれるが、基本は無関心。
・暴言を受けて傷ついていても、上司は「こういう仕事をしていればよくあることだから。早く慣れてね」みたいなことしか言わない。
対人援助職なら「あるある!」と思わず声に出るような内容ですよね。
こんな環境で働いていると、「クレームを受けた事実」自体がそのスタッフにとって脅威になります。
誰も守ってくれないわけですから、不安や焦りが強くなり、冷静な対応が難しくなるということです。
今回はクレーム対応についてのテクニックと心構え的な話をしましたが、「クレームを受けたスタッフを支える職場づくりこそが大切である」ということも同時に押さえてくださいね。